親が亡くなり、その遺産をどのように相続するか子供達で話し合う【遺産分割協議】において、子供間で親から支払ってもらった学費の差がある場合には、その話し合いが難航する場合がありますので注意が必要です。
そこで、典型的な相談事例をご紹介しますので、これから親の遺産について、兄弟姉妹間で遺産分割協議をする方は、ご参考にして頂ければ幸いです。
※なお、個人情報保護のため、内容を一部変更しています。

【相続関係】
父が亡くなり、母はすでに亡くなっている。
相続人は長男(兄)、長女、二男(相談者)の3名であり、亡父は遺言書を作成していない状態でした。

【相続財産】
実家で空き家の不動産、預貯金、株式が主な相続財産

【学費の差の程度】
長男(相談者の兄)は3年浪人の末に大学に進学。大学卒業まで合計7年間の学費は亡くなった父が支払いをした。ちなみに、長女は短大卒後に就職。
二男(相談者)は高校卒業して就職をしたらしい。

【ご相談の内容】
ご相談者が、次のように胸中を話し始めました。
『兄は大学を卒業したあと、一流企業に就職ができ、きっと給与は私よりもかなり多かったと思います。それに比べ、私は高校卒業後に中小企業に就職したゆえ、兄よりは給与が少なかったはずです。』

『にもかかわらず、兄は次のように私に言ってきたのです。』

“父の遺産は、3人で3分の1ずつ相続する内容が公平なので同意して欲しい。”

『兄は浪人3年間と大学4年間の多額の学費を親から援助されているのにもかかわらず、
私は高校卒業後に就職したのだから、ちっとも『公平』ではないと思うのです。』

『それに加え、生涯賃金も大卒の兄と高卒の私では、かなり開きがあると思います。』

『なぜ父の遺産を3分の1で相続することが公平なのか、兄の考えは全く理解できないです。
そこで、自分なりに調べたところ、民法に『特別受益』が定められていることを知りました。』

『このような経緯ですが、父から兄への7年間の学費は特別受益になりますか?』
『なるとしたら、どのように兄に私の意見を伝えたらよいでしょうか?』

【私からの質問】
「あなたは高校を卒業する時に、本当は進学を希望していたが、親の経済的な負担を憂慮して断念をしたのでしょうか?それとも、自らの意思で高校卒業後に就職という道を選んだのですか?」とお聞きしたところ、

「早く独立をしたかったので、高校卒業後に自分の意思で就職をするという選択をしました。」と話されました。

【私からのご回答とアドバイス】
『まず❶の特別受益に該当するかですが、
お兄様は3年間浪人の末、大学に入学し、卒業したとすると、確かに7年間の学費は多額となります。反面、あなたは高校卒業後に就職したということは、親から支払ってもらった学費に差があるため特別受益に該当しそうですが…。』

『しかし、あなたの意思で、高校卒業後に就職をしたわけですから、それは特別受益を認める方向に働かない要素となります。よって、特別受益に該当するかは何とも言えないと思います。』
とご回答をしました。

相談者は少し不満そうなご様子で、私に次のように話をされました。
『仮に、私が高校卒業後に進学を切望しても、兄は大学、姉は短大に通学中の時期であったので、親は経済的に私の大学の学費まで支払うことは絶対に無理でした…。だから、私は高校卒業後は就職するという選択しかなかったのです。なのに、特別受益に該当しないというのは理解ができないです。』

そこで私から、
『確かにお気持ちは察します。しかし、もしあなたが進学を希望すれば、親が学費の支払いができなかったとしても、奨学金制度を利用すれば、進学ができた可能性があるため、やはり特別受益するとは言い切れないのです。』
とご回答しました。

しかし、相談者はまだ不満そうでした…。

そこで、私から話をかえて、
『あなたはお父様の遺産分割協議で、お兄様と揉めても構いませんか?それとも円滑に話し合いを進めて、なるべく早く合意をしたいですか?』
と質問をしてみました。

ご相談者曰く、
『父も遺産で子供達が揉めていることは、天国で望んでいないでしょうから、円満に兄、姉と話し合いをしたいです。』
とのことでした。

私から、
『多くの遺産分割の話し合いの場に立ち会ってきましたが、昔の話である特別受益や親孝行をしたという【寄与分】の話を持ち出すと、過去の話には際限がないため、揉めやすくなってしまいます。円満な遺産分割協議を第一優先とするのであれば、亡くなったお父様から支払ってもらった学費の差のことを、お兄様に伝えるのは得策ではないでしょう。』
とお伝えをしました。

最後に私から、
『不公平であるとのお気持ちはとても理解できます。』
『しかし、お父様が血と汗で築き上げた財産ですから、円満な解決を望む場合は、過去は水に流し、残った遺産を誰がどのように相続するかのみを話し合ったら如何でしょうか?
とお話をさせて頂いたところ、ご相談者は心の中の疑念が解消できた様子で、
『先生のお話で納得ができました。ご相談をして良かったです。有難うございました。』
と大変感謝をされました。

【まとめ】
親が遺した遺産を巡って争いを避けたい場合には、過去の話である特別受益や寄与分などの話をすることは、控えた方が無難でしょう。
親が天国で見守っていることを念頭に、兄弟姉妹で仲良く遺産を分け合うのが一番です。

★当事務所では、遺産分割協議の相談では、なるべく円滑・円満に話し合いが進むように、アドバイスをさせて頂いております。これから親の遺産をどうするか話し合いう方は、お気軽にご相談下さい。

おすすめの記事